Serow225 ~ あばたもえくぼ


 

出会いさえあれば決めてしまうことは、もうわかっていた。それはやっぱり恋なんだと思う。どこかでばったり出くわさないかと願っていたら、意外にも叶ってしまった。僕の目の端を通り過ぎる赤いカモシカをそのまま見過ごすことは出来なくて、声をかけたらトントン拍子。これがきっと、出会いなんだな。数年ぶりのニューカマー、希代の名車セロー225。

僕のもとに訪れた1985年式のセロー225は、初期型の中でもさらに最初期のロットで、カモシカの角が枝分かれしてるちょっと風変わりな奴だった。30年近い年月を経ていたわりにはパリッとして、前オーナーの愛情の深さが見て取れた。そりゃあちこちに目を凝らしてみればその年月が読み取れないわけではなかったけど。エンジン音は静かで、それは古い掛け時計のようにコトコトとリズムを刻んでいた。あ、こいつを迎え入れよう、と迷いなく決めたんだ。

ヘルメットと雨具を抱えてセローを迎えにいった。キックを2回ほど踏み下ろすと小気味良くエンジンが目覚める。セローはすでにナンバーを抹消してあったから試乗も出来ず、この時が記念すべきファーストライドだった。小雨の煙るなか、鼻先を帰路に向ける。さあ行こう、ちょっと遠めのクラッチをスルリとつなぎ、アクセルをあおる。

走り出して思わず笑ってしまった。
モモモーと回る耕運機のようなエンジンと、ピックアップの長閑さ。プアなブレーキ。でも全然、悪くない。おっとっと、ブレーキ利かないなあ。でも握り込めばググッとくる。これは良く言えばコントローラブルってことだな。悪くない、悪くないぞ。そして何だろう、この牧歌的な乗り味は。1速はなるほど、かなりのローギアードだ。優しく労りながら、でも甘やかさずに、早めにシフトアップしていく。

ズタタタタタタタ、ウン、ズタタタタタタタ、ウン、ズタタタタタタタ・・・

5kmも走ると素性がわかってきて、すぐに仲良くなれた。
林道界のカローラ、林道界のスーパーカブ。これが30年売れ続けたロングセラーの乗り味か。たぶん、乗り込むほどに楽しさは増していきそうな気がする。それからこれは大事なことだけど、驚いたことに、わりと速い。「あ、もう1速あるんだ」という6速のお得感。上がすこぶる気持ち良い。

こうして我が家には30歳になろうかという老カモシカが加わった。
WRももちろん手放せずにいる。

 

カテゴリー: 1KH

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