北海道2014備忘録 ~ 5日目


 

テントを叩く僅かな雨音と、大泣きする子供の声で目が覚める。予報通り、朝から雨。もう心の準備は出来ている。むしろ、これまでの晴天続きが出来過ぎだった。少しゆっくりと起き出して、テントから顔を出す。雨脚はまだ弱い。本降りになる前に荷物をまとめてしまおう。

予想外に朝のコーヒーが飲めないことになった。旅の朝はコーヒーで始まると相場は決まっているのに。100均のライターがこれほど早く仕事を放棄するとは思わなかった。僕はもう煙草をやめて3年も4年も経つから、かつて日常的に愛用したジッポライターも、とうに引き出しの奥に仕舞われていた。煙草を吸う人にとって火は身近な存在だが、吸わない人にとっては手の中に火を灯す機会は限りなく少ない。

僕は常用しなくなったライターを、旅に出る直前に100円ショップで買い求めたのだ。欲を出してチャッカマン的な形状を選んだのが間違いだったのか。いやむしろ、100円ライターを100円ショップで買ったことが間違いだったのかもしれない。とにかく、僕のチャッカマンはくちばしのような先端から、わずかな火花とカチカチと鈍い打音を発するだけで、完全に手仕舞いの体を成していた。火が着かなければ湯も沸かせない。

山を降りたところにコンビニがある事はわかっていたから、朝食用のパンと一緒にそこでコーヒーを買おうと思った。ライターもそこで買えばいい。ならば、やはり本降りになる前に走り出すべきだ。

昨夜のハーレー御一考様(関東ナンバー)の本日の予定は、サロマ湖にある『船長の家』でカニ三昧だそうだ。僕の逆周りのルートを行くことになる。一昨日のサロマ湖は強風でしたよと伝えると、一番派手なウルトラに乗ったおじさまが、「君はずいぶん、旅慣れているようだが」と、僕のオートバイと手作りキャリア、それからパッキングを15メートルくらい上空からの物言いで褒めてくれた。ありがとうございます。

カッパとブーツカバーでフル装備。羅臼側に向けて出発。
知床峠では薄霧。しかしそれがかえって幻想的な光景に。羅臼岳が目前に迫った時は本当にハッとした。頂には雲の冠、なんという神々しさ。これを見られて良かった。念願の知床横断道路、何もかもが桁違いのスケール。原始的な地球の姿を感じる。縦横無尽に生い茂る植物たちが君臨する、それは人類も、まだ恐竜も存在しない太古の世界に思えた。道の両脇の森に一歩踏み込めば、そこは別の者が支配する領域なのだ。そんな圧倒的な迫力とヒリヒリとした恐怖を伴って、知床の自然は僕に迫ってきた。もはや100円ライターが着かなくなるのも必然とすら思えた。

知床半島を抜け、標津まで下りて来た頃には土砂降りになっていて、全身ドブねずみ。少しぐったりして、道脇にあったログハウス調の定食屋さん(名前失念)に退避。濡れねずみなので外で全て脱いで置いておこうと思ったら、お店の方が出てきて手招きした。

「どうぞそのまま中に入って来てください」
「いや、でも濡れますから」
「干す所があるから、食事の間乾かして下さいな」

北海道の人は、本当に優くて泣きそうになる。お言葉に甘えて入店し(普通の上着掛けだった。案の定びしょ濡れにしてすみません)ポークチョップを頬張りながら思案。今日は上士幌のキャンプ場に泊まろうと思っていた。これからの行動を想像する。土砂降りの中、テントを張る自分の姿。うぅ、全くその気になれない。持物はもちろん防水してるけど、着ているものはかなり滲みてしまっていた。iPhoneで検索し、躊躇なく帯広のホテルを予約。甘やかしました今回は。まぁ良い、ここまで3泊の宿代は400円。今日は充電日だ。

そうと決めたら現金なもんで、俄然元気になる。残り200kmをどこも観光せず、帯広まで猛然とスパート。野付半島のトドワラだけがどうしても心残りだったけど、あの天気じゃきっと何も見えなかったな。仕方ない、次回の楽しみに。

帯広駅前のホテルにチェックインして、風呂でさっぱりしてから夜の街をパトロール。なんとも素敵な屋台村があって、そこで二軒ハシゴ。一軒目、地元の豚串6本セット、枝豆、生ビール2杯でお会計。二軒目、生牡蠣2個、シメサバ、生ビール1杯、冷酒2杯。どちらも安くて旨い。

二軒目のマスターは元バイク乗りで、僕の不自然についた手首のグローブ焼けを指して「バイク?」と言ってニヤリと笑った。「ゴルフ?」と聞かれないのは相手もバイク乗りであるが故だ。周りのお客様も初めましてだけど、コの字のカウンターを囲い大いに盛り上がった。何しろその中に、セイコーマートの幹部とその部下の方がいらっしゃって、うおおおー!毎日お世話になってます!と。商品についてなど、興味深くお話を聞いた(かのグランディアシリーズはド◯ールと同じ豆を使ってるんだ。73円なのにね!)そしてセイコマがいかに素晴らしいか、とくと褒めちぎって差し上げる。何が素晴らしいかって店員さんの対応ですよ!と酔った勢いもあり、がっぷりよつで褒めちぎる。あー楽しかった。

そこで得た情報では、狩勝峠に行ってみたらというものだった。明日、三国峠を捨てて富良野へ向かう途中寄ってみる。

久しぶりにベッドで就寝。シモンズのベッドにロフテー枕工房のマルコビーンズ。快適じゃないわけがない。泥のように眠った。
7/23 水曜日 国設知床野営場~ビジネスホテルJRイン帯広 325km

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。