北海道2014備忘録 ~ 7日目

 

5時半に起きて撤収作業。
このテントももう、何十泊したかわからない。この旅でお役御免だろう。あちこちシームテープが剥がれてきて、生地がベタベタになってしまった。特にフライシートはひどい。床面もいよいよそんな有様なので、買い替えないと。11年前、北海道ツーリングの為にこのテントを買った。それからあらゆる場所で、僕はこの部屋に守られてきた。僕はこの空間で、いろんな事を学んだ。最後の設営が北海道というのも、このテントに相応しい気がする。

「やあ、どーもどーも」

見覚えのある顔が話しかけてくる。旅とは不思議なものだね、僕も人見知りな方だけど、そんな垣根は取り払われてしまうのだから。

 

新潟港手前の黒崎PAで、僕らはどしゃ降りの空を眺めていた。
「もう少しで新潟なのにね。」彼は苦笑まじりに言った。彼のスーパーテネレは北海道はおろか、ペルーの奥地にだって飛び込んで行けそうだった。濡れたブルーのタンクはぬめぬめと、艶かしい輝きを帯びていた。濡れネズミになった僕たちは、同じフェリーに乗って北海道に来た。

ほどよく汚れた彼のテネレも、1週間の旅を物語っていた。旅も最後のキャンプ場で、再び顔をあわせる。彼だけに限らず、同時期に走っているライダーの行く先は似かよっていて、道中何度か同じバイクを目にする。「あぁ、あのバイクの。どーもどーも」みたいな不思議な連帯感。言わば、同志というか戦友というか。それぞれがそれぞれの旅を続けているんだろうけど、時には過酷な瞬間とかもやっぱりあって。それを、この人も知ってるんだ、味わってるんだというリスペクト。これらの人と、今日大部屋で雑魚寝と言われても、わりとすんなり受け入れられると思う。

お互いの予定を少し話して、じゃあ良い旅をと言って別れる。この素っ気ない感じも僕は好きだ。「みなまで言うなアミーゴ、わかっているさ」という彼の声が聞こえる。すべて僕の想像だけれど。テネレ兄さんは連泊。僕は撤収して札幌へ。

実質、今日がツーリングの最終日。求めたらキリがないけれど、行きたい所はだいぶ回れた満足感はあった。おしむらくは雨と濃霧で断念した、野付半島のトドワラが見られなかった事。でもこれも旅のひとつ。また次回の楽しみができたと思えば悔いはない。最終日の今日は札幌に宿をとり、ジンギスカンを食べて酒を飲み、1週間ぶりに文明に戻るのだ。

パッキングをしてると、横で体操してたじーさんが僕のバイクを指差して「ナンバーが縦になっとるのぅ、警察に通報しとくから」と茶化してくる。僕のバイクは色気づいてサイドナンバーなのだ。大人げないと言われれば、返す言葉もない。「あ、ホントですね。昨日の雨で傾いたかな」と笑顔で返す。見合わせて笑い。

少し、話し込んだ。品川ナンバーの車に乗ったじーさんは、もう二ヶ月、北海道を旅してるそうだ。「帰ったってやることねぇもん。だったらここにいるよ。温泉を巡ってよぉ、混浴のね。へっへっへ。」と言って笑った。奥さんはいるんだろうか、子供や親類はいるんだろうか。もちろん、そんな事は聞かないけど。でもじーさんの顔に曇りのようなものは無くて。色んな人生を重ねて今、ここにいるんだろうなと感じる。とりあえず向日葵の咲く時期まで、あとひと月はいると言っていた。そんな老後も悪くないな。カミさんがもし、オレより先に居なくなってしまったらの人生を、少しだけ想像してみたりする。

「8時半になったら旗持ち(観光バスの事)が来るから、急げー」
そう言われて、慌てて富田ファームに向かう。時刻は0730。


10kmほど走ってラベンダー畑。うむ、まあ、綺麗だね。
富良野や美瑛はとても穏やかで優しい土地だ。でも知床に行ってしまうと、なんとなく物足りない。知床のむき出しの自然は、恐怖であると共にヒリヒリと刺激的だった。カミさんへのお土産を買って、ブロッコリーのカレーを食う。このブロッコリーが素揚げしてあって、予想しなかった食感で実に旨い。再び上富良野に北上し美瑛。この辺りは眠すぎて、終始フワフワ走ってた。何の感慨もなく美瑛を通過してしまい、いやもっと何かある筈だと戻って、パッチワークの路へ進む。

マイルドセブンの丘、ケンメリーの木、セブンスターの木。そこらのスポットを全て見てやるぞと走り回ったけれど、残念ながらそれ程の感慨は無かった。いや、充分綺麗なのだけど、むしろ脇道にそれて、地図にも無い農道に入り込んだ方が息を飲む景色に出会えた。確実に道には迷うけど、それとのトレードオフ。

美瑛を過ぎ旭川へ。旭川は通過しただけで立ち寄らず。札幌へ向かう。
道の駅深川で眠気に耐えかね、休憩しつつかけそばをすすり、ベンチで5分気絶してからしばし考える。左折すればすぐに道央道。札幌までの100km余りも、1時間程で着くだろう。料金は2,200円。それなりに高い。まして、北海道で高速使うってどおなのよと一瞬思ったけど、あっさり採用なわけで。父さん、僕は弱い人間で。かくして道央道に滑り込み、強風のなか爆走。50分後には札幌ICを下車。うーっし。ホテルへと向かう。

サンルートニュー札幌は、古いけど格式のあるしっかりしたホテルに思えた。
当日空きの出た禁煙ルームに変更してくれてラッキー。「少し広くなっております」更にラッキー。部屋に入るとベッドが3つ。 三人部屋でした。広すぎて落ち着かない。手早くシャワーを浴びて札幌の街にくり出すと、大勢の人でごった返していた。今夜は、豊平川の花火大会なのだった。ビアガーデンあり、ハイボールガーデンあり、いろいろあり。案の定楽しくて飲み過ぎ。札幌ラーメンで〆てベッドに倒れ込む。






7/25 金曜日 日の出公園オートキャンプ場~サンルートニュー札幌  251km

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。