Pizza Indy’s 〜南房の赤いおもちゃ箱

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朝、都議会選挙の投票を終えて、さてこの後どうするかとなる。

天気は梅雨の中休みのようで、時折陽も射す蒸し暑い日だった。「私は会場に行くけど、来ない?」奥様は自分の写真展の会期中であったので、当然会場へと向かう。「ごめん、ちょっと行きたいところがあって。構わない?」僕は奥様をセローで駅まで送ってから、いったん家に帰りハーレーを出した。

時刻は11時30分。南房総まで向かうには随分遅い出発だ。夜には別の用事もあるから、あまりのんびりもしてられない。
第一京浜を車の流れに乗って川崎へ。浮島入口からアクアラインに滑り込む。海ほたるを横目に一路木更津へ。そのまま右車線を突き進み館山道、君津から富津館山道路終点の富浦までの高速弾丸コース。南房へのアクセスもずいぶん楽になったものだ。

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富浦で高速を降りて、お次は外房へ。千倉にある「Pizza Indy’s」を目指す。
地図を見ると行きしなに、安房グリーンラインの文字。少し大回りになるが通っていく。県道187号に乗って千倉駅を過ぎ、目印の郵便局を過ぎると隣に真っ赤な建物が見えた。

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Pizza Indy’s、いつか訪れたい店だった。

ナポリピッツァの店なんて聞くと、白赤緑のトリコロールに”la”とか”da”とか読めない店名というイメージがあるが、Pizza Indy’sはロゴに軽くフレアが入っているし、どちらかと言えばアメリカンダイナーとかバーガーショップのような趣だった。もちろん僕としてはこちらの方が馴染みがある。

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真っ赤なログハウスの横には、かつて石窯を積んで走ってた移動販売車のクイックデリバリーが、その役目を終えて佇んでいた。

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駐車場にバイクを停めて、QDの中を覗き込む。
塗装は日に焼けて退色し、タイヤはパンクして車内は荷物入れになっていたけれど、それでもQDは格好良かった。これ以上ないほどカクカクと角張った働く車。これに沢山のピザ生地と、オーナーの夢と希望を積み込んで各所に走って行ったんだもんな。ひととおり見てからお店のドアを開く。

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「こんにちはー、いらっしゃいませ」
オーナーが石窯の前から声をかけてくれる。
すぐ目に飛び込んできた、店の奥に鎮座する2台のスポーツスター。

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その背後に壁一面の工具。やっぱりアメリカンだ。一番奥のテーブル席をとって店内を眺める。

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バイク、サーフィン、自転車、スケボー、玩具、沢山のヘルメット、壁の額縁、トラッカーの革ジャン。うわーなんだよ落ち着くなあ、どストライクじゃん。

 

「バイク、良い色ですねぇ」
オーナーが水を運びながら言う。

「ホントですか、ありがとうございます」
「何年式です?」
「2002年です」
「じゃあ、キャブ車最終くらい?」
「いや、2005~6年までキャブなんですよ」
「ああそうですか、ワイドグライド?」
「ええそうです」

オーナーは笑顔で頷いてすっと身を引き、僕がメニューに目を落とすのを待つ。

「あの、今日マルゲリータはできます?」
「ええ、これですね。バジルお好きでしたら、今取ってきますけど」
「じゃあ、それで」
「ハーフ&ハーフもできますよ。お好きなの半分ずつね」
「じゃあマルゲリータと、自家製ベーコン&トマト&季節の野菜のハーフ&ハーフで」
「承知しました」
「あ、あとIndy’sサラダと、ジンジャーエールも」
「はい。お待ちくださいね」

オーナーが厨房へ戻る。僕は席を立って、2台のスポーツをしげしげと眺め、トイレで手を洗い、壁にかけられたダートトラッカーやマックィーンの写真を眺め、沢山の工具とパーツをくまなく確認し、また腕組みしてうーんとスポーツを眺める。

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奥様が笑顔でジンジャーエールとサラダをテーブルに置く。「取り皿お持ちしますね」
席についてサラダをいただく。サッパリと酸味の効いたオリジナルドレッシング。文句なく美味い。

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「久しぶりに格好良いバイク見たなあ。最近のはなんて言うか、ちょっとギラギラしててね」
「ああ(笑)、ありがとうございます。僕ずっとIndy’sさんに来たくてですね」
「バイク、見てきていいですか?」
「え?ええ、もちろん」

僕は結構押しの強い、アウトローな店主を勝手に想像してたんだけど、実際のオーナーは何というか、すごく紳士的で物腰は柔らかく、でももうバイク大好き汁が出ちゃってるのは明らかなんだけど、その出過ぎずのお人柄とか、空気感がとても居心地よくさせてくれた。

 

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そしてピッツァが焼き上がる。さすが石窯、ものの数分である。

横に摘みたての生バジルが添えられている。「適当にちぎって散らしてくださいね」
ひと切れ手にとって、こぼれたチーズを乗せなおして、口いっぱい頬張った。

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思わず唸る。しみじみ美味い。僕はきっと、これ以上美味いピザを知らない。この美味さは石窯である所以なのだと思いたい。この薄さでこのもっちり感。どうしたらこうなるのか、僕には見当もつかなかった。

「マジで美味いですね。ビビりました」
「ありがとうございます」

オーナーは照れたようにそう言って、水のボトルを新たに出した。
他のお客さんが帰られたのもあって、僕はピザをパクつきながら沢山お話しさせてもらった。バイクの事、ピザや石窯の事、移動販売の事、これまでの生き方、これからの生き方、などなど。

2台のトラッカースタイルのスポーツは、オーナーと奥様のもの。
奥様の’96(?)スポーツのブレない格好良さったらない。2.25ガロンのチビタンクにそら豆シート、アップタイプのスーパートラップ2in2。この正統派セットアップにあらためて痺れる。
オーナーもニーバーで有名な、JOCKEY新井さんとずいぶん古い仲らしいから、やはりこの方もホンモノだなと。

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「うちのカミさんも’86の4速乗ってましてね、僕が言うのもなんですが、格好良いんですわこれが」という話からまた始まって、ふと外を見れば赤白ハスクなんかも停まってて、「いや実は僕もオフ車が好物で・・・」なんて延々バイク談義。すっかり調子に乗って、オーナーの手を止めさせて長居してしまった。

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「今度はぜひ奥様といらしてください」
「はい、絶対またきます。あの、何枚か写真撮っても?」
「ええもちろん、好きなだけ撮ってください」

僕は何枚かシャッターを切り、見送りに出てくれたオーナーに会釈して店を出た。
高速料金払ってピッツァを食べにいくためだけの250km。充分その価値のあるうまいピザ。僕は少し寄り道して、海沿いの県道を家路へと急いだ。

 

姉妹サイト:旅するピッツァ。
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