4速スポーツスターと僕と

’86 XLH883は、それまでのショベルからエボリューションに変わった初年のモデルで、以降、’91年に5速となるまでの5年間、4速トランスミッションの採用されたスポーツスターでした。新設計のアルミエンジンは飛躍的な進化ではありましたが、過渡期にあった’86はショベルの特徴も色濃く残しているのです。

あまりにも有名な「スポーツスター馬鹿一代」のジャイアンさん(残念です。お悔やみ申し上げます)の言葉を借りれば、” 車体としてはXLXがショベルスポーツの完成形であり、5速スポーツがエボスポの完成形だと思うのですが、その狭間になった4速は実にその中間と言うか、過渡期にあたり、どちらの特徴も持ちながら、実にデリケートな、悪く言えば壊れやすい機構を持ち合わせた、中途半端なモデルである ”とご自身のバイクを分析しているのです。つまり、だからこそ4速は面白いのだ、ということですね。

まさにこの’86スポーツが、うちの奥様の愛車なのでありますが、このスポーツスターと僕の関係においては、なかなか微妙な距離感だったりするのです。

僕はオートバイに対して過干渉なきらいがあるのですが、スポーツに対してはあまり踏み込んだ真似はしません。頼まれればオイルを変えたり、バッテリーを充電したりといったことはしますが、あまり余計な口出しはしないのです。本当は過干渉ですからいろいろしたい気持ちもあるのですが、奥様には奥様のオートバイ観というものがあるし、そこへ僕の価値観を持ってズケズケと踏み込むことは、趣味の世界において好ましくないと思うからです。あるいは、言い方を変えれば彼女は何でもかんでもやってよ、というタイプの女性ではないということです。

そして、僕はこのオートバイの乗り味は好きなんですが、あまり好んで乗り回したりもしません。これは奥様に気を使ってというよりも、ジャイアンさんのいうように「壊れやすい」という機構を危惧してのこと。身内とはいえ人様のバイクを壊しても、または壊されても、気持ちの良いものではありません。特に4速のミッショントラブルはよく聞く話です。スポーツに乗るときは細心の注意と丁寧さでシフトチェンジをしていますから、変な意味で気が抜けないのです。

そんなスポーツと僕の付き合いですから、適度な緊張感と多少のよそよそしさを伴うのですが、つい先日、『ちょっと、スポーツ乗るか』という思いが湧いて奥様に借りたのでした。最近奥様も忙しく、ましてこの寒気ですから、動かすのは久しぶりのことだったのです。

2、3回アクセルを煽って、ケーヒンのバタキャブにガスを送り、チョークを引いてセルを押します。久しぶりだからか、なかなかかかりません。「コックがオフだよ」と奥様に言われ、慌ててオンにします。

エンジンスタート。完全に温まるまでは、クシャミしたり多少ぐずったりします。セッティングの問題なのか、低速でのパーシャルが苦手で息つぎします。好ましいとは言えないのですが、なんとも人っぽいというか無骨な様が感じられるのです。一度キャブをOHしてみようかと頭をよぎりますが、それも思い直します。

銀座、築地と抜け、臨海副都心やお台場あたりを走り回ります。
なんと言ってもこのオートバイは、ポジションが良い。わりと大柄な僕にはあまり似合ってないのかもしれませんが、コンパクトなボディにフラットバー、ステップの位置も無理なく自然。いくらか身体を縮こませながらコーナーを駆け抜けていく楽しさは、ワイドグライドでは到底味わえないものです。低速域ではギクシャクしていた感じも、ワイドオープンすればたちまち荒々しく回っていきます。オールアルミのはずですが、なんだか「ゲンコツ」のよう。そのエンジンはどこかゴロリとした、いわば日向に置かれた温もった石のような手応えと温度を感じるのです。

城南島海浜公園で止まったものの、楽しくてすぐ走りだし、東京ゲートブリッジを渡り若洲海浜公園を横目に、お台場を回ってレインボーブリッジに駆け上がる。人混みは苦手だし、街には戻りたくねえな。とバイクが言ってるようで、街中を避けて羽田に寄ってから帰りました。

家に戻ると奥様がガレージのシャッターを開けました。日向に置かれた温もった石のようなオートバイを仕舞い、ぽんぽんとシートを叩いて電気を消しました。
「まだまだ、これでわかり合えたと思うなよ」とでも言われたような気がして、僕はまた適度な緊張感を楽しむのです。

 

 

1件のコメント

  1. はじめまして。
    僕は1989年式XLH1200に乗ってます。
    乗り始めてもう21年です。
    これからも大事になさってください。

    • X1号さま

      初めまして。コメントありがとうございます。
      21年乗り続けておられるとは、大先輩ですね。
      4速スポーツはあまり主張しすぎず、なのにたたずまいには雰囲気があって僕も大好きです。カミさんのですけど。
      これからもお互い大事に乗りましょう。ありがとうございます。

  2. はじめまして。
    1年違いの’87中期~後期型883に乗ってます。

    以前はこの辺の東京湾岸をよく走ってました(ほぼ夜中ですけど)。
    ウチは練馬なので新目白→外苑東→レイブリ→トンネル2つ潜って環七で帰還って感じです。
    それをジャイさんのブログに書き込んだら、彼は「その東半分を走ってる」と。
    そしたら、別の方(TOKYOステップのE/Jさん)の書き込みが「それらの下半分が定番コース」。
    なので「湾岸で4速会でも開けたらなあ」なんて思っていたら、ジャイさんがロングツーリングに出てしまい・・・。

    さて、ウチも純正φ34バタキャブですがノーマルだと完全に薄いです。慣れちゃえば普通に乗れるんですけどね。
    ちなみに1100だと883より更に薄いセッティングです。883はMJが1.55、1100はMJが1.50。SJは0.52で共通です。
    御写真を見ると外装は1100(ホイールは883用?)の様に御見受けしますが883なのですか?

    ウチのはノーマルマフラー穴開け加工なのでSJは2コ上げでも良いかなと思ってます。
    現在1オーバーのSJ0.54(社外品の為。純正の1オーバーは0.55)ですがパーシャルで偶に咳き込みます。
    信号開けのストールもしばしばあります(加速ポンプのダイヤフラムの劣化が原因かも?)。

    MJは1オーバーの1.60が入ってますが、標高が高い登りだとカブる感じなのと、
    高速を”ぬふわ”km/h以上で巡航すると極端に燃費が悪いのでノーマル1.55に下げたいです。

    SJ0.52/MJ1.60だった時は、田舎の下道だと60km/hで35km/1L以上走りました。SuperCubかよって感じです。
    全て2ケツで、そこそこ積載時のデータです。
    φ34のバタキャブ付きスポーツスターのデータはネット上にほぼ無いんですよね。
    なので、御節介とは思いましたが参考にでもなればと書き込ませて頂きました。
    SJはCVやFCRと共通のはずですので、量販店で簡単に入手出来て値段もハーレーパーツ屋より安いです。

    バタキャブはチョークの使い方&調整方法を知ると物凄く便利なので、僕はCVキャブより好きですね。
    なにより、いかにもアメ車のキャブって感じが良いじゃないですか(日本製ですが)。

    ’86はとても希少な砂型バスタブヘッド搭載車です。大事になさって下さいな。

    • KAZ-HDさま

      初めまして。コメントありがとうございます。
      ブログも拝見いたしました。素晴らしいデータのアーカイブですね。
      こういった貴重なデータを公開されてるって、ユーザーとして本当にありがたいし素晴らしいことだと思います。バタキャブのセッティングについても参考になりました。そうですか、純正だと薄いんですね。カミさん的には多分そのままいくんでしょうけど、ひとつの情報として蓄えておきますね。

      ジャイさんがロングツーリングに出られてもう一年ですか。早いです。
      そろそろバイク乗りにとって良い時期になりますね。どこかでお会いできるのを楽しみにしています。ありがとうございました。

  3. はじめまして!
    まだ乗って2ヶ月ですけど90年のXLH1200に乗ってます!
    いつも見てます!
    よろしくお願いします!

    • 8732さま

      こんばんは。初めまして。
      スポーツスター、お乗りになって2ヶ月とのこと。今一番楽しい時ですね(笑)。これから良い季節になりますし、益々楽しまれて下さいね。世の情勢も少し落ち着くと良いんですが。。いつも見てますのコメント、ありがとうございます!励みになります。ボチボチ書いていきますので、良ければまた覗いてくださいませ。

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