さあ海鮮丼の話をしようか

海の近くに行ったなら、しばしば海鮮丼が食べたいと思う。

刺身定食という選択枠もあるにはあるが、海鮮丼の方がその店の個性が出る。ひとつの器にところ狭しとネタが並ぶわくわく感は、丼でないと味わえない。わさび醤油を回しかけるも良し、ネタを醤油皿につけていただくも良し。食べづらさというデメリットも、どう切り崩していくかの攻略法と捉えればいい。新鮮な魚を豪快にかきこむ、ライダーならそんな丼の方がしっくりくる。

コストパフォーマンスだって無視できない。2,000円の刺身定食は、まあ致し方なしとも思える。しかし海鮮丼に2,000円となるとどことなく割り切れなさが残る。2,000円の海鮮丼だって中にはあるが、僕が求めているのはそういった丼ではない。余った切り身をアレコレ乗せたような、まかない丼の類なのである。オーセンティックな海鮮丼とは、もともとそんな役割があるのではないかとさえ思う。

何年か前に、静岡県の伊東に有名な海鮮丼の店があると知って、向かったことがある。到着した時は昼時を過ぎていたが、店へ上がる階段は行列で埋まっていて、最後尾には「本日売り切れ」の看板が置かれており、だからある程度予想はできたけど、食べることなく店を後にした。久しぶりにその店を調べてみたら、移転して新しい店舗で営業を続けている。

それで、軽い気持ちでまた行ってみることにした。ワイドグライドを出して自宅を9時に出発。
店名はずばり『魚河岸』。伊東駅を過ぎて1kmほど先にある。
用賀から東名高速に乗り、西湘バイパスを経由して海沿いのR135を延々と南下。渋滞につかまりながら午後12時40分に伊東駅。遅い。同じ轍を踏むとはこのことか。半ば諦めムードの中、駄目もとで店に向かう。

駐車場に乗り入れて、新しくなった店舗を見る。1階は鮮魚卸売販売、2階に食堂、ベンチに猫。

車で到着した男女のカップルに続いて、店への階段を上がる。売り切れの表示がないので食べられるかもしれない。

「いらっしゃいませ、お二人?こちらのテーブルどうぞー」先のカップルが通される。
「おひとり様?カウンターどうぞー」僕も着席する。

客は僕たち3人だけである。対して店員は5人もいる。きっと、慌ただしい昼時の嵐が去った後の静けさ。滑り込みセーフ、タイミング良かった。
壁にかかったメニューを見る。

・海鮮丼
・刺身定食
・エビフライ定食
・ミックスフライ定食
・煮魚定食
・焼き魚定食

どれも税込み1,100円と安い。煮魚と迷う。しかし、まずは海鮮丼か。

「海鮮丼はまだできますか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「じゃあ、それで」

テーブル席のカップルは海鮮丼と煮魚定食をオーダー。若いのに立派なチョイスである。2人で来たら僕もそうしたいところだ。

「海鮮丼2ー、煮魚1です」

キッチンに声がかかる。お茶と先付けが置かれる。マグロの醤油づけ、漬物はたくあん。醤油づけが良い箸休めになりそう。10分ほど待っていよいよ着丼。味噌汁はしじみ。

丼の蓋からすでにネタがはみ出している。僕はメガ盛りとかは好きじゃないけれど、かと言ってあまりに少量だとやはり残念な気持ちになる。マグロの切れ端がドンとはみ出てる様は悪い気分じゃない。

蓋を開ける。おお、とにかく盛りが良い。そして赤い。マグロ率高し。他にはハマチ、キンメ?、蛸、ホタテ半身、玉子。まかない丼の雰囲気たっぷりである。実際にはまかないではないが。

醤油皿にわさびを溶かして、ネタをつけて食べる。普段は回しかけてしまうのだが、いつもとちょっと違った感じにする。赤身の食べ応えたっぷり。身が分厚い。ああ、刺身食ってるなあ。わさびがツンと鼻をつく。ネタの下に隠れたご飯を頬張る。酢飯感はあまりない。もう少し酢を効かせてもいい。味噌汁はしみじみと美味い。ご飯とネタの分量が合わないのは、これもう仕方ないことなのか。刺身が余るなあ。わしわし食う。

 

全部きれいに平らげて、「ごちそうさま」と言って店を出る。
ポッキリ1,100円。満足度高し。豪華すぎない正統派な海鮮丼であった。

店の外に出ると『本日売切れ』の看板。僕で最後。

ちょっと得したような気分になって、寝ていた猫の背をつつーとひと撫でしてバイクに戻る。

次は煮魚定食でも良いなと思う。

 

 

 

 

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