旅とオートバイ


良い旅バイクであることのひとつに、周囲に対してローインパクトであることが重要だと思う。
のどかな田園地帯で畑仕事するおばあの横を、すっと通り過ぎても気にならないような優しさが必要なのだ。山に分け入って林道を走る時も、むやみやたらに地面をホジくりかえすようでは地球に優しくない。山間の集落であっても、田んぼのあぜ道であっても、または都市部であっても、お邪魔しますと言って自然にとけ込むインパクトの小ささ。それが良い旅バイクの条件なのである。

そんなことをR299を走りながら考えていた。250ccオフロードの旅は奥が深い。エンデューロレーサーをツーリングに使うことがナンセンスなのは、もちろんわかっていた。競争するためのオートバイが良い旅バイクであるとは言いがたい。もう少し、旅しやすい車種に買い替えるべきか悩んでいた。

でもWR-Fはとても良く出来たバイクで、アクセルを開けさえすれば水面をバウンドする飛び石のように、小気味良くダートの表面を舐めた。まるで自分が上手くなったように思わせてくれる。その気になれば旅に使える懐の深さも内包してたから、どうにも手放す気にはなれなかった。
そう僕は、贅沢な悩みを抱えていた。

 

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