旅するカメラ

 

北海道ツーリングも4日目を過ぎて、羅臼のキャンプ場でひと息ついた時だ。今まで幾度となく旅に連れ出していたカメラを壊してしまった。僕の不注意だ。なにげなく置いたオートバイのシートから転がり落ちて、鈍い音を立てた。大丈夫かなと淡い期待を持って電源を入れたが、液晶は真っ暗なまま黒い瞳に光は戻らない。かなり由々しき事態だった。

SIGMAのDP2は僕にとって、愛しくも小憎らしいカメラだ。
カメラとしての機能は今どき驚くほどプアで、誰かが冗談で作ったのかと思うほど。撮影状況はとかく限定された。まず感度はむやみに上げられないので、夕暮れを過ぎたら素直にDP2は仕舞って、暮れていく夕日を眺めることに専念した。不精な性格が災いして三脚を構えて撮る旅にはどうにも馴染めなかったし、ISO100のRAW撮りでないと、このカメラを使う意味はほとんどなかったので、撮れない状況では早々に諦めるスタイルになった。 

それで不便だったかといえば、もちろん不便だ。ぶん投げて捨てたくもなる。それでも、このカメラでハマった時の一枚は他に代え難く、結局は浮気しても戻ってきてしまうのだ。 

光を取り込まなくなった黒い箱は、およそ人間的な感情を見せることなく横たわった。暗いままの液晶を手に、僕は思った以上に狼狽えた。このカメラは撮ることの楽しさを教えてくれた一台だ。修理に出すか、いっそ中古を買い直すか、あるいはこのわがままなカメラから手を引くか、頭を悩ましている。

 

 

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