7月、いよいよ夏が来たなと思う。
7月の中旬に少し休みを取った。夏休みの前倒し。夏休みはいつだって光の早さで飛んでいく。奥様からお許しも出たので、なにをしようか考える。いろいろ妄想してやっぱり渓流釣りに行こうと決める。キャンプツーリングしながらできれば、釣った魚で酒を飲みたい。少しだけ自然の命をいただいて、川の音を聞いて寝る。道志川はもっぱら坊主続き。なので、思い切って他の遠征地を考える。
いろいろ調べて多摩川源流である、山梨県丹波山村方面の現地調査へ行ってみる。
朝4時起きしてWRで出発。今回もウェーダーは調達できなくて長靴釣行。膝下までの水位にしか入り込めないから、欲求不満で終わることはわかっているのだが仕方がない。どんな場所なのか、まず見に行ってみる。
早朝の新青梅街道は順調そのもの。奥多摩湖周辺は早い時間にもかかわらず、たくさんのバイクと車。僕はここから更に山奥に向かってアクセルを開ける。
R411を西進、道の駅たばやまを過ぎると、丹波川の本流に鮎釣り師の姿が現れる。炎天下の中、7~8メートルもあろうかという長竿を振っている。夏場の鮎釣りの光景は、なんとも風情があって良い。
徐々に山深くなってきて、余所者御免といった荒々しい景観に変わってくる。何度か路肩に停めて、渓谷を見下ろし川の様子を探る。まだここじゃない。また歩を進める。何しろどの辺りが良いのかもわからない。気になる脇道があって反射的に飛び込んだが、行き着く先はゲート封鎖で行き止まり。崖下を覗くと良さそうな渓相。ガードレールの端から降りられそうだし、ここでひとまず竿を出してみる。
下に降りると大岩も転がるなかなかのワイルド渓流。早速ルアーを投げてみる。殉職者が多すぎて、二軍ミノーしか残ってないのが痛恨の極み。1時間ほどパトロールするが異常なし。足跡もあったから、だいぶ叩かれてるか。
案の定長靴じゃどうにもならず撤退。また崖をよじ登っていったん戻り、ゲート脇から進入してまた別の急勾配を降りて再入渓。撤退した向こう側へ出る。トレッキングきつい。さらに釣り上がるが、泳がないと進めないところで引き返す。バイクに戻って移動。
R411から林道一ノ瀬線へ突入。この先には確か、キャンプ場がある。そこまで見に行こう。
しばらく舗装林道を駆け上がり、道路脇のスペースにいったん停めてまた崖下を覗く。
先ほどよりさらに急な崖下に川面が見える。
どうする、行くか、行けるか。荷物を背負って慎重に崖を下る。
下は予期せず4メートルほどの二連の滝。ぽっかりと口を開けた滝壺に勢いよく水が流れ込む。雲の動きが早いのか、突然辺りが暗くなったかと思えば、さあっと陽が射して川底を照らす。
なんだかもののけな空間に降りてきた。ぞくっと肌が泡立つのがわかる。周囲の物音に敏感になるが、感傷に浸ってる場合じゃないぜ。滝の向こうの回り込みを狙ってルアーを何度か投げる。一度だけ魚信のようなものがあるが、その後はぱったり。我慢比べなのか、そもそもこんなところに魚など居ないのか。
崖をほとんど四つん這いになって天上界へ。ぜぇーぜぇー言いながら昼飯タイム。今日はチリトマトとおにぎり。いつも本当にびっくりするのだが、外で食うカップヌードルがなぜこんなにも美味いのか。
またバイクに乗って移動。林道をさらに直進。一ノ瀬高原キャンプ場を目指す。途中、美しい支流がいくつも目に止まる。とても細い。淵と瀬が連なるこれぞ日本の沢。ルアーでは攻めにくい、やはりこんな場所は、テンカラロッドを振ってみたい。
一ノ瀬高原キャンプ場はすぐ脇に、細い渓が流れる綺麗な場所だった。ここの管理人はテンカラの名手であるらしい。沢を覗き込むとちらちらと魚影が見える。小さいがヤマメだろう。もう今日は竿を出さないつもりで仕舞ったが、思わずまたルアーを付けてちょいと投げてみる。釣れない。また仕舞う。
そのままバイクでキャンプ場内まで突き進む。管理棟に突き当たると、ひとりグラインダー工作をするおじさん。きっと管理人だろう。会釈してぐるっとひと回りして引き返す。なかなかエキセントリックな空間だった。
まだ午後も早い時間だったけど、手仕舞して帰路に向かう。あらためて僕は、細い支流や沢が好きなんだと思った。だからどうしても、毛鉤テンカラを手に入れたい。
汗みどろになった身体を「のめこい湯」で洗い流し、そそくさと青梅街道を戻る。行きしなに、いくつか釣具屋を見た。少し、冷やかしながら帰ってみようと思った。
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シマノ 渓峰テンカラ SX RT33J
とある店で、偶然にも僕の目の前でこのロッドが陳列された。少し古い竿だが、きっと物は悪くない。帰りのリュックにはエゲリアと、もう一本の竿が飛び出していた。