梅雨の二泊三日渓流ツーリング 1日目 ~金峰山川

DSCF0011

梅雨のまっただ中、僕は早めの夏休みをとって、ひとり長野へ向かった。
セローでのふらり下みち旅なので、夜中には出発しようと思っていたが、準備がはかどらず結局朝になってしまった。なにしろ暑い、湿気が身体にまとわりついて、少し動いただけで汗だくになる。ようやくパッキングを終えた頃にはぐったりしてしまい、少し休んでから行くことにした。二時間ほどの仮眠をとって、朝4時の目覚ましで行動開始。僕は金峰山川を目指して、甲州街道をひた走った。ちなみに長野では「きんぽうさん」、東京山梨では「きんぷさん」と呼ぶらしい。

長野県南佐久郡川上村。

この地名を聞くとあの広い空と広大な畑と、しんどかった農作業を思い出す。僕にとって川上村は苦々しい場所でもあり、不思議と第二の故郷とも思えるような場所だった。川上村はレタスなどの高原野菜が有名で「レタス御殿」なんて呼ばれる大きな農家がたくさんある。もう20年も昔になるが、僕はこの地で3ヶ月ほど住み込みのアルバイトをした。田舎へのホームステイ程度の軽い気持ちだったと思う。実際飛び込んでみたらとんでもなく過酷な重労働で、間違えて軍隊に来たかと疑うほど厳しい毎日だった。

田舎の優しいママンが迎えてくれるのではといった妄想は、根元からぽっきりへし折られた。劣悪な住環境のなか、ほとんど休みなく早朝から夜まで働いた。意地だけで3ヶ月勤め上げた時は、履いてきたデニムのウエストがガバガバになっていて、2サイズダウンしていた。今書いていて思い出したけど、あの経験を思えばたいがいの事は乗り越えられると思っていた。

長い前置きになった。

そんな甘酸っぱい場所でもあるが、今回のバイク釣行と高原野菜は何ひとつ関係ない。フライフィッシングのメッカであるという金峰山川で、初めてのテンカラを振ってみたいと思った。なぜここを選んだかというと、金峰山の麓にある廻り目平キャンプ場からの景観が美しかったから。金峰山は「日本のヨセミテ」と呼ばれていた。ヨセミテとは大きく出たな。
万が一釣果が思わしくなかったとしても、目前の荒々しい岩肌が僕の旅欲を満たしてくれると思うのだ。釣れなくとも、まいっか景色も良いしの「道志川効果」である。

DSCF0013

懐かしい信濃川上駅に寄って、駅前のひぐれ食堂に入る。20年経って今もって不思議であるが、なぜ商いとして成り立っているのか分からない。20年前も今も、店内の客は僕だけだ。

DSCF0019

なんとなく見覚えのあるおかみさんと世間話をして、「野菜イタメ定食」をオーダー。イタメはなぜか片仮名である。そう、20年前も僕はここで野菜イタメを食った。その時の驚きは今でも覚えている。「野菜炒めにキュウリ入ってんじゃん」

IMG_5554

キュウリだと思っていたものの正体はズッキーニだった。少なくとも今回はズッキーニだ。しれっとズッキーニに差し替えたとは考えにくい。似たような野菜だが、ズッキーニならまぁアリかという気分にさせる。どのみち僕に好き嫌いはないから、キュウリだったとしても残さず食べる。かなり塩気の利いた、メシのすすむ野菜炒めである。申し訳程度に入っている魚肉ソーセージがまた良い。

DSCF0020

実は20年前にも来ましたなんて野暮な話はしない。雨がひどくならなくて良かったとか、この辺の野菜のことなんかを少し話して、ごちそうさまと言って店を出る。
廻り目平キャンプ場へはもうすぐだ。途中「NANA’S」に寄ってビールと食材を買って、14時頃キャンプ場着。

DSCF0025

このキャンプ場のゲートが場にそぐわない物々しさで、立体駐車場のような発券機と車止めのバーで規制しているのだが、ゲート脇には防犯カメラも複数台あって、物騒でしかたない。なんだってこんなに仰々しいのか知らないが、このシステムが正直とても煩わしかった。キャンプ場から出入りするのに、毎度打刻や発券が必要で、管理棟の営業時間内にそれをしないといけない。釣り師の朝は早い。早朝出る場合は前もって相談を、なんて言葉を聞いてすっかり白けてしまった。あーメンドクサイ。

反面良いところもある。ここの料金体系は入場料とテントの幕営料とで分かれていて、それぞれ700円と300円。つまり1テン泊するなら1,000円ということだが、入場の時間帯は朝4時~夜7時までとなっている。すなわち、俗に言うチェックアウトが夜7時なので、撤収するかどうか、翌日充分に考える時間があるということ。夜7時までに出ていけば一泊にはならないという、ちょっと変わったシステムだ。

DSCF0029

サイトは広いが傾斜も多く、ぐるぐると見てまわってようやく決める。やはり、目の前に金峰山の見える場所だな。テントを張ってウェーディングブーツ履いて、早速テンカライダー出動するぜ。空模様は相変わらずのどんより曇り空で、時折パラパラと降られたが、酷くはならなかった。管理棟で釣り券(1,700円)を買って少し情報収集。「この辺の川は放流してないから結構厳しいみたいですよ。もっと下流に行けば放流してるけど。」ネイティブか。

ざっと地図を見て、一番近い金峰山川西俣の流れに向かう。

DSCF0033

セローの鼻先を林道に向けてダートを激走。こいつで来て正解だったなと思う瞬間。しばらく進むと一台の軽自動車、今まさに退渓したと思しきルアーマンとばったり出くわす。

「これからですか?」
「いえ、やめたところです」
「どうでした?」
「いや~厳しいですね。フライの人が多いのかな、スレてるね」
「そうですかー、ちょっとやってみるかな」
「これからですか?大雨雷警報出てるけど」

まじで?空を見上げると、いつしか真っ黒な雲。
雨での増水や鉄砲水も恐いが、落雷はもっと恐い。ビビって竿を振れない。チキンだと笑っていただいて構わない。地図を見る。このまま林道を進めば、東俣の流れに着きそうだ。ルアーマンに会釈して、雨が降る前に少しだけ散策することにする。林道を1キロほど走って橋に出る。ここが東俣沢か。

DSCF0034

ここでパラパラと降り出して、慌てて来た道を戻る。遠くの空でゴロゴロと鳴り出した。キャンプ場まで全開で走ったが、着いた頃には全身びしょ濡れに。

ひとまずテントに避難。これは釣り券が無駄になったか。濡れた服を脱いでパンいちでフテ寝すると、途端に睡魔が襲ってきた。あまり寝てないのだから無理もない。気づいたら2時間ほど熟睡。目が覚めるとテントを叩く音が消えている。あれ、雨やんだじゃん。テントから顔だけ出して空を見た。雲の切れ間からは青空が。

再びテンカライダー始動。もうゲートチェックがめんどくせー。西俣沢に入渓し、1時間だけでもと竿を振る。普段は1.5メートル余りのルアーロッドなのだが、テンカラ竿は倍の3.3メートル。ラインをうまく飛ばせるのか、入渓前に少しキャス練した。よし、どうにかなりそうだ。毛鉤を何度か枝に引っかけながらも釣り上がる。1時間ほどやってはみたが魚の気配なく、諦めて退渓。

ここで問題発生。バイクに戻ってまたがろうと足を上げると、靴底がぷらーんとしてる。えっ?フェルト剥がれてるじゃん。もう片足も見たらすでに靴底が無かった。1時間しか遡行してないのに。中古のウェーディングブーツなんて買うもんじゃない。とりあえずそのままセローに乗ってテントに戻る。また雨もしとしと降ってきて、泣きっ面に蜂。

IMG_5559

金峰山荘の風呂は終わっていたので、コインシャワーをワンコイン分浴びて(3分100円)買ってきた豚肉、シメジ、プチトマト、ズッキーニをオリーブオイルで適当に焼いて、ビールで流し込む。米や焼酎も持参していたが、靴底問題とジメジメした空模様もあって全く気分が上がらず。食って飲んでさっさと寝る。

他にサンダルはあるが靴はこれしかない。明日からどうするか。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。