GW関西ツーリング2019 〜6日目

岡山県瀬戸内市の端っこに、牛窓という瀬戸内海に面した小さな街がある。

僕はその名をずっと「ぎゅうそう」と読んでいたのだけれど、「うしまど」の間違いだと知った時は少しショックだった。ぎゅうそうという言葉の響きにどこか愛くるしさを感じていたのだが、うしまどだと途端に野性味を帯びてくる。住んでる人には申し訳ないが、できればぎゅうそうと呼びたい。違うとわかっていながらも、僕は今でも密かにぎゅうそうと呼んでいる。

牛窓は小さいけれど「東洋のエーゲ海」とも呼ばれる海沿い特有ののんびりした街で、それでいてクリエイティブな気質を感じさせる場所でもある。若い陶芸家やイラストレーター、または移住して農業に従事する若者もいたりして、ゆったりした時間の中にも程よく刺激が散りばめられているような街だった。街への入口には「USHIMADO」のタイポグラフィー的オブジェがあって、これを見て自分の読み違いに気づいた。

その牛窓に、一軒のピッツェリアがある。店の名を「マンチズピッツェリア」といった。
マンチとは、”ムシャムシャ食べる!”という意味の言葉らしく、古民家を改装した住居兼店舗で、ご夫婦二人で営まれている小さなピザ屋だった。店の雰囲気はもちろん、地産品を生かした食材へのこだわりや、食べるを愉しむというコンセプトのもとで日々を大切に生きており、ピッツァ作りのみならず生活そのものがそのような成り立ちの上に営まれていることに、僕はある種の理想を見ていた。

僕は一時期、真剣にナポリピッツァを作ることに没頭し(今も好きだけど)、健康とチーズの関連性について自分なりに悩んでいたこともあり、その点マンチズがどう解釈しているのかメールしようと思ったほどだ。実際書いたのだが、あまりにも唐突すぎると寸でのところで思いとどまった。そんな一方的な想いもあって、いつかマンチズのピッツァを食べてみたいと思っていた。この店の存在を知ってから2年近くが経ったこの日、僕は牛窓へ向かった。

6日目、5時30分起床。朝日で目覚める素晴らしさよ。ようやく晴れ。

トイレに行きつつ敷地内を散歩する。朝日が周囲一帯を照らして良い一日になる予感。用をたしてから少林寺道場で思い切り伸びをする。

KAWASAKI Versysのおじさまは早朝に出発し、GSのお兄さんも支度を終え走り出すところだった。

林道楽しんでください。お気をつけて。見送ってから僕も荷物をまとめる。

さて、旅も残すところあと二日。
今日はかねてより行ってみたかった瀬戸内のピザ屋に行く。マンチズピッツェリア。幡降野営場にテン泊したのもここに行くためであった。そのあとは一気に名古屋まで走ってホテルに泊まり、明日には東京へ戻る。チキチキVMXに参加するため。

8時出発。結局住職さんにはお会いできなかったけど、素敵な場所でした。

久しぶりの晴天はやっぱ気持ちいー!

開店は11時からなのでまだずいぶん早い。近くに立ち寄るところがないかと調べたら「牛窓オリーブ園」を発見。これは願ったり叶ったりで行くしかない。

街の入口には素敵なオブジェ。USHIMADO・・・。ウシ・・・

くねくねと坂を上り牛窓オリーブ園到着。バイクを停めて園内を歩く。

「東洋のエーゲ海」キレー。

園内のオリーブショップで「赤屋根 ガーリックオリーブオイル」だけ買って、そろそろマンチズに向かう。

ここで ”マンチズピッツェリア” とスマホのナビで検索したら、どういうわけか目的地が岡山市内を指した。この時は深く考えずに「あれ、けっこう距離あるな」と思っただけで、ナビの指示通り向かってしまった。

なぜナビが岡山市内を指したかはわからない。同じ牛窓のはずなのに、岡山市にあるわけがない。「岡山県庁のそばかぁ。わりと街の中にあるんだな」
そんなわけない。全く気づかなかった。

オリーブ園から岡山市内までおよそ30km、何の疑いもなく突き進んだ。幸いだったのは「岡山ブルーライン」の無料区間であったこと。高速道路をノンストップで走った。
岡山市内に入っても気づかず。ナビの指す目的地周辺をウロウロして「あれ無いぞ」と初めて疑問に思う。はたと思いついて再度検索。牛窓・・・牛窓って、さっきまで居たとこじゃん!?ダメだな、人間考えることを放棄しちゃ。

東京を出発する前に、マンチズには予約のメールを送っていた。『11時におひとりさまで向かいます。』時計を見る。10時45分。もちろん間に合わないので電話する。しばらくコールした後、女性の声が出る。

「はい、マンチズピッツェリアです」
「あ、今日11時に予約した東京のnovotelです」
「はいはい。こんにちは」
「あの、道を間違えまして。今県庁の方にいるんです」
「県庁・・・って市内ですか?」
「そのようです」
「あら」
「それで、11時には間に合わないようで」
「うちは構いませんよ。気をつけて来てくださいね」

それから岡山ブルーラインを急いで戻る。USHIMADOの文字を横目に再び牛窓入り。オリーブ園からマンチズは、目と鼻の先であった。

約束の時間から遅れること30分。ようやくマンチズ着。右往左往してしまった。

店前に乗り着けると、旦那さんが出迎えてくれてアイコンタクト。

「novotelさん?」
「迷っちゃいましたー!」
「お疲れ様でした(笑)」

バイクを停めて、窓の外から店内を覗く。まだ他にお客さんはいない。カウンターの奥に、電話で話した奥さんの姿が見える。こっちを心配そうに伺っている。ちょっと待ってね、バイク乗りはいろいろと面倒なのだ。ヘルメットを脱いで、ハンドルロックして、先に入った旦那さんのあとについて店に入る。

「こんちはー、遅れてすんません。」
「・・・」

ひと言も発しない奥様。僕の顔をじっと見てる。

「え?」

遅れたことを怒ってるんだろうか。それとも入っちゃマズかった?若干狼狽えるも、もう後には引けぬ。まじまじと僕を見た奥様が、開口一番言った言葉。

「〇〇小(学校)?」

「へ?」

「〇〇小でしょ?」

 

 

「・・・はぁ?」

 

 

この時の僕のキョトン感ったらなかったと思う。
「〇〇小」。確かにどこかで聞き覚えはある。でも40年ちかく過ぎた地元小学校の名前を、遠く瀬戸内の小さな街の、ピザ屋の奥さんの口から発せられても入ってこない。

「は、はい?」
「2、3年で一緒だった」
「え?うそ?だれ?えー!誰よ?」
「旧姓はK」
「Kさん・・・ちょ、待っ、えー!?誰やねーん?(にかいめ)」
「私おとなしかったからね」
「えーっ!うそー!!」

最初こそわからなかった。彼女だけでなく、小学校時代の記憶そのものが朧げである。僕はきっと、過去の記憶をあまり留めておけないタイプなんだと思う。でも、彼女の顔を見て話しているうちに、ギシギシと錆びた記憶の扉が開いていく。ぱっと思い出すのではなく、じわりじわりと記憶が蘇って、小学生だったKさんの顔が脳裏に浮かんだ。ああ、Kさん、Kさんじゃん!なんでー!?

そこから僕たちは堰を切ったように話した。まさかあのマンチズの、メールまでしようとした相手が同級生だったなんて・・・。
僕からのメールでまさかと思ったらしい。きっと同姓同名だろうと。でも、東京のnovotelもそう多くはいまい。

昼近かったこともあり、どんどんお客さんが入ってきて、あっという間に満席になった。彼女は生地を伸ばし始め、旦那さんは窯に入れ焼成した。僕はなんだか夢でも見てるような気持ちになって、二人の息の合った動きを離れた席からぼーっと見てた。

旦那さんがオーダーを取りに来てくれて、オリーブ入りのマルゲリータと、お勧めだという自家製ベーコンと野菜のハーフ&ハーフを頼んだ。前菜とドリンク付きのランチセットで。

満席になって、僕らは何も言葉を交わさなかった。でも、生地を伸ばしながら彼女は時折ふっと笑った。

念願のピッツァは、いけないものの入っていない、優しい味のするピッツァだった。泣けるほど旨い。店内に流れるレコード盤のレゲエを聴きながら、僕はピッツァを頬張った。

牛窓の美しい光が窓越しに挿して、何とも言えない気持ちになった。このあとも、彼女はこの出会いをずっと「ギフト」だと言ってくれる。

20年前なら恋に落ちるところだけど、それ以上の嬉しい再会だった。ありがとうKさん、旦那さん。お会計をして、笑いながら「写真撮っていい?」と聞いて最後にシャッターを押した。

たぶん、僕のこれまでで最高の一枚。
すごく気に入ってる。無断で載せちゃうけど、いいよねKさん。

それからは、一路名古屋まで400km余りを一気に駆け抜けた。なんだかよくわからない高揚感を抱えながら。

名古屋リッチホテル錦」というチープホテル(笑)にチェックイン。シャワーを浴びて名古屋の街に出た。もうなんでもいいから一杯飲みたかった。目についた焼き鳥屋に入って、串を何本か頼んだらびっくりするほど旨かった。幸せな一日だった。

あれ以来Kさんとは、今でも何十通もメールをやり取りしている。つまり、ピッツァの師匠として僕の疑問に全て答えてくれている。僕のピッツァ熱は、奇しくもまた再燃した。

 

 幡降野営場〜牛窓オリーブ園〜マンチズピッツェリア(瀬戸内市牛窓町)〜名古屋リッチホテル錦 走行距離:451.3km

 

 

 

 

 

1件のコメント

  1. おおお!すごい縁ですね!旅の奇跡のようにも感じられる再会ですね。そのための旅と言っても過言ではないような…そういう意味(?)でnovotelさんのピッツァを早く食べてみたいです(笑)。

    • nmindさん

      そうなんですよねぇ。僕がピッツァに興味なければ行かないでしょうし。宝くじに当たったようなもんだと父親には言われました(笑)。この旅一番のびっくりでした。今は昔話もしながら、ピッツァについていろいろ聞いちゃってます。師匠と読んでます(笑)。もう少し腕上げたら、ぜひ食べてみてください。夏は北海道も良いけど、また牛窓に行こうか考え中。。。コメントありがとうございます。

  2. そんな事もあるんですね~。なんか、すごく充実した旅だった様ですね^^
    そういう意味で、novotelさんのピッツァはいつ食べられるのでしょうか?

    • スラトン2号さま

      どもども。ねー、人のご縁ってのは不思議なもんです。でもこれはなんかの知らせだなと勝手に解釈して、またちょっとピッツァ作り頑張ってみようと思ってます。いつですかねえ(笑)。真面目に答えるなら、ある程度のものがバラつきなく焼けるようになったら、お声がけします(笑)。コメントありがとうございます。

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