ノッキンオンロッカーアーム

長距離走ってエンジンが熱を持つと、わずかに打音を感じることがあった。音とは、とみに気になるものだ。カチカチいういわゆるタペット音とは違う気がしたが、では何の音かと問われれば、わかるはずもない。走行距離、推定2万キロに達するセロー。これは良い機会とバルブクリアランスを調整することにした。

まずタンクとシートを外す。マニュアルを参照し、圧縮上死点を出す。サービスマニュアルには、ローターカバーの確認窓からマークを合わせ、上死点を出せとある。

Webにころがる情報では、これに加えてシリンダーヘッド横のカバーも外し、カムチェーンスプロケットの切り欠きも「念のため」確認するという記載があった。簡単に人を信じないうえに屁もくさいところのわたくしは、マニュアルに無いことなどしない。なので、ローターカバーの合致点だけ合わせ、ここが圧縮上死点と疑わなかった。これがなんとも大誤算。

シクネスゲージでまずは吸気側のクリアランス、0.05mm~0.09mmを計る。
なぜか0.05mmのゲージがまるで入っていかない。広がることは予想していたが、狭くなることはあるんだろうか。この時点でも特に疑わず、規定値に合わせて蓋をする。次いで排気側は0.15mm~0.19mm。こちらも全く入らない。おかしいな?と首ひねりながらも、クリアランスを調整して終了。

僕のセローはキックオンリーで、デコンプが付いている。デコンプワイヤーは排気側のバルブカバーに繋がっていて、カバー裏にあるデコンプカムがロッカーアームに当たり、圧力を逃がす構造になっている。全部蓋をして、さてと何気なくデコンプレバーを引いてみたら、何の手応えも感じない。スカスカと当たりがなく、利いてませんよねコレ具合は火を見るより明らかだった。

キックを踏めば作動するのかもしれない。そう思いたい。
タンクを乗せ、諸々戻し、指先確認してキックを手で下ろしてみる。何かがおかしい。デコンプも相変わらずスカスカ。根拠なき願望は容易く打ち砕かれる。疑問を持ったまま突き進んではいけない。

とりあえず腹が減ったので中断してカレーを食う。スプーンを口に運びながら、問題点を考える。もう一度タンクを外し、排気側のカバーを外してみる。デコンプカムがある。ワイヤーを手で引くとスムースに動く。特に問題は見つからない。もう一度蓋をする。デコンプを引く。利かない。軽くキックしてみる。おびただしいタペット音。なぜだー!

はたと思う。
本当に圧縮上死点なのかと。マニュアル通りにやった。しかし、本当に圧縮上死点なのかと。

「念のため」シリンダーヘッド横のカバーを外し、カムスプロケをむき出しにして、切り欠き確認。合ってないじゃーん。

切り欠きは180度逆。クランクをもう一回りさせないと合わない。ということはつまり、排気上死点だったということか。むーん、よくわからない。そもそも排気上死点では駄目なのかもわからないのだが、結果的に駄目だったのだから「カムチェーンスプロケットの切り欠きも確認して、圧縮上死点を出す」とマニュアルの改訂を是非ともお願いしたい次第。

きっちり上死点を出してからクリアランスを取り直すと、あっさりデコンプも作動した。キックを踏む。まずはかかりが良い。試走しても特に問題はなさそうだ。結局、クリアランスがどうだったのかわからないが、音が出ないことを願う。

 

カテゴリー: 1KH

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