Hello, world.

雨の週末が続いた。オートバイに乗るには雨は激しすぎて、僕はパラパラと雑誌をめくったり、ぼんやりとラジオに耳を傾けたりしていた。あらゆるメディアが氾濫するこの現代において、僕の家ではAMラジオがよく流れている。聞き慣れたTBSの「永六輔その新世界」が終わり、若手漫才師がディスクジョッキーをつとめる新しい番組に代わっていた。

永さんの声が聞こえてこないのは寂しい。漫才師の軽快な掛け合いも悪くはなかったが、土曜の午前中に聞く声、特に今日のような雨の日は、少し落ち着いた大人の声が聞きたい。永さんにとっての新世界とはどんな世界だったのか。世才に長け、言葉少なくも心のひだに触れる永六輔の話を聞いて、ハッとさせられたかった。つまり僕は、雨の土曜日を持て余していた。

ふと壊れたDP2が目に入る。ああそうか、旅に連れ出すカメラは壊れてしまったのだ。そう思ったら急に忘れ物をしたような気持ちになって、なにか心の琴線に触れるようなカメラはないものかとネットを徘徊し始めた。窓の外は盛大な雨音が響いている。他にすることもなく、時間だけはあった。 

DP2よりもう少し広角が欲しかったから、DP1xを探してみた。なんだかんだ毒づいても、僕はDPの描写が好きでたまらない。でもいつの間にかFUJIFILMのX10というカメラに目が行き、さらに調べると後継のX20の方が良さそうだとわかった。FUJIのレンズにも興味はあったし、少し懐古主義が過ぎるきらいはあったけど、所有欲の満たされそうなデザインは、何より撮る気にさせそうだ。旅に携えるのに悪くないと思えた。

FUJIFILM X20
このカメラについて詳しいことは何も知らなかった。RAWで撮れるのか、気になったのはそれだけ。カメラは結局のところ、使ってみなければわからない。面白そうだ、買ってみよう。こんな書き方をするとカメラを買うくらい容易いという風にも取れるが、とんでもない。ここから先はいかに資金を捻出するか、頭を悩ませるのだから。 

土砂降りの雨がいくらか小降りになるのを、旅人のようにじっと待った。出番の少なくなった一眼レフのボディと、レンズを1本鞄に詰めて家を出る。電車を乗り継いで中野で降り、商店街を抜けてカメラ屋へ入った。店員のお姉さんに頼んでX20を出してもらい、ぎこちなく触れてみる。持参したボディとレンズと引き換えに、X20をおずおずと受け取った。

夜の街はいつしか霧雨に包まれている。商店街を一本脇に入ると、雨にけぶるネオンや電飾看板が立ち並ぶ飲み屋街があった。それが少し特別な世界に見えてシャッターを切りたいと思ったが、カメラはまだ箱に入ったままだ。X20を懐に抱え、僕はふらふらと提灯の灯る飲屋横丁へ消えていった。

 

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