セローで行く、真冬の信州ツーリング

年が明けてからの僕はわりとのんびり仕事をしていて、職場の窓から穏やかな空を眺めたりしていた。空が高い。1月も末だというのに、今年の冬はまだ暖かかった。
かたや奥様の方は忙しそうで、夜のフェリーで伊豆大島へ渡ったかと思えば、大阪、熊本、石川と飛び回っている。空を眺めながらふと、「オレもどっか行くか」と思い立つ。

長野県松本市という場所は、僕にとってなんか惹かれる場所である。縁もゆかりもないこの土地に、引き寄せられるようにして何度も向かった。松本には気に入った居酒屋があるし、腕利きのバーテンダーが集うBARの街としても有名だし、草間彌生の常設展はあるし、道中の温泉にも事欠かない。よし、この真冬の最中、信州に行くという愚行をおかしてみよう。

そうと決まれば安いホテルを探して予約する。軽やかに有休届けを出して(好遊撃手のスローイングのように)、金曜日出発の1泊ツーリングが決定。
再訪したかった奥蓼科温泉「渋 辰野館」で薬湯に入って、松本の居酒屋「風林火山」で酒を飲む。この際だから松本城も見ておこう。往復500km。万が一の雪や凍結も考えて、取り回しのきくセローで行く。

この時は、今期最大の寒波が来るなんて思いもよらなかった。

当日の朝、5時半に起きて防寒着を着込む。真冬の完全武装。何十回も冬を超えてきて、重ね着もある程度の経験値が蓄積される。手の寒さだけはどうしようもないけど。

仮付けしてたETCのアンテナも、ステーを自作して付け直し。フォークのクランプに共締めする。LEDに変えたヘッドライトの配光はすこぶる順調で、夜の安心感が格段に増した。早くやるんだった。

7時過ぎに出発。

気温はもちろん一桁台。西神田からすぐに首都高に乗って、中央道を目指す。
談合坂を超えたあたりから指先がじんじん痺れだしてきた。ウインターグローブにインナーを仕込んでいても指先が千切れるように痛い。予想はしてたけどやっぱり寒い。身体に寒さは感じてなかったけど、時折意に反して下半身がガタガタと震えた。

たまらず初狩PAに退避。バイクは僕一人。
トイレの「冬季はお湯が出ます」の表示がこれほどありがたいことはない。湯に浸して解凍。

寒いけど、空気は澄んでいて富士山もよく見える。

少し暖をとってから出発。まだまだこの先は標高が上がる。

給油のため双葉SAにイン。ここでの外気温2℃。でも日差しが出てきてかなりマシになる。身体も寒さに順応してきたか。

冬の空。

ここでももちろん一人(笑)。

八ヶ岳を超え、小淵沢付近の中央道最高標高の1,000メーター超えでは氷点下1℃。この中を90〜100km/h巡航しているんだから、体感温度は−20℃くらいになる。この辺りは日中の陽が一番高い時に超えないとヤバい。

諏訪南ICで下車。

先に温泉に行くか昼飯を食うか考えて、12時近かったこともあり食事をとることにする。県道をつないで田舎道を走る。

道端に雪がちらほら。

信州といえば蕎麦やソースカツ丼なんかが有名だけど、冷えた身体に温かいものを入れたかった。気になっていたラーメン屋があって、そこに行ってみることにする。

麺屋 蔵人

僕は普段、味噌ラーメンはあまり頼まないんだけど、ここの「焼き味噌らーめん」が美味しいとの評判を聞きつけての訪問。寒い日の味噌は確かに沁みる。

これだな。

少し待ってから着席。もともと味噌や醤油を作っていた建物のようで、店内は蔵のような重厚な趣。

「お決まりになりましたら仰ってくださいね」お姉さんが水を運びながら言う。
「あ、じゃあお願いします。ええと、焼き味噌らーめんの半熟煮卵入りで。あと餃子も」
「はい、かしこまりました」

水を飲みながら店内を見回す。ラーメン王も太鼓判。

「お待たせしました。焼き味噌らーめん煮卵入りです」

熱した鉄鍋に熱々の味噌ラーメン。胡麻の良い香りが食欲に火をつける。これは旨そう。
スープを一口すする。期待通りの濃厚な旨味。冷えた細胞に染み渡る。

しっかりした太麺にチャーシュー。煮卵もメンマも全部好きなやつ。具材のひとつひとつが全部旨い。はータマラン。勢い込んで食う、食う。すする。

餃子もいいよ。

「ごちそうさま」と言って店を出る。信州に来て蕎麦じゃない飯があってもいい。

 

お腹も満たされて、さてこの後は温泉に。県道191の峠道を上がって、奥蓼科温泉郷へ向かう。

山道だし凍結してるかな・・・

 

してるよねー。

つか、積もってるよねー。

凍結の下りコワイ。

まあ、何はともあれ到着したので風呂に入って行く。ここのお湯は3カ所の浴場を、いちいち身体を拭いて着替えてから回らないといけない。全ての湯に入ることが湯治としてお勧めらしい。それが億劫で嫌だという人ももちろんいる。僕だって面倒だ。だけど、前回来てこの煩わしさも悪くないと思えた。便利で合理的な事ばかりが良いわけじゃあない。

でも今日は時間がないのでダッシュで入る。陽が暮れて気温が下がる前に松本入りしたい。

見覚えのある入口が見えてくる。

カッコイイ!

ん?

・・・・・

 

ちーん。

 

去る。

 

国道20号から19号にスイッチして、松本入り。
ホテルにチェックインしたのが16時過ぎ。温泉に入ってたら結構遅くなったので良かったと思おう。泣いてなんかないやい。部屋のちっさいユニットバスにお湯溜めて、深いため息とともに身体を沈める。「ぐはぁぁぁ〜〜〜。」極楽極楽。

テレビでは天気予報。今夜から明朝にかけて大寒波襲来とか言ってる。今夜遅くから雪の予報。見なかったことにして消す。

さて、夜の松本にくり出す。これは駅前。

お目当はここ、風林火山。

ほとんど満席状態だったけど、おひとり様なのでカウンターの端に滑り込む。前回もここでもはや定席。この後たくさんのグループが入れずにお断りに。

お通しは豚肉と野菜と卵のスープ。寒い夜に気が利いてる。

風呂上がりの生ビールを飲み干して、地酒に目をやる。今夜は全て長野の酒で攻める。
メニューを見ながらどれにするか悩んでいると、大将から声がかかる。酒の好みがあれば言ってみてと。

「この『大信州』を頼もうと思うんだけど」
「それなら一杯目はね、大信州でもサーバのがあるんだ。そっちがいいね」
「じゃあ、それで。あとお刺身の3点盛りと、わさびの花のお浸しも」
「ごめんね〜、食べ物はそこの紙に書いて頂戴」

ああこれか。

「はい大信州、サーバね。」

グイッと飲むとわずかに発泡していて華やかな味わい。うんま。

「お刺身ね。お一人だからふた切れずつにしといたよ〜」
「全然3点じゃないですね」
「サービスね〜」

残念ながらわさびの花のお浸しは売り切れ。
大将が「カウンターさんにチェイサー出して」と指示を出す。水のボトルが運ばれてくる。店内はごった返してるのにさりげない気配りが嬉しい。

「次になんか、オススメあります?」
「はいよ」

「次はこれね。今朝瓶詰めしてきたやつね」

焼き場にいた別のお兄ちゃんが言う。
「自分が今朝詰めてきたんですよ。なんでかって言うとですね、自分非番だったんですよー。ぐっはっはっはー!」と言って自ら大爆笑。全然意味不明だけど僕もつられて大爆笑。

「お前非番だったからなんて言うと酒の価値が下がる!ぐっはー!」と大将も大爆笑。いまいち意味わからんけど楽しい。

紙に ” 黒おでん 大根、野菜天 アンコウの唐揚げ ” と書いて渡す。

うまいことうまいこと。やっぱ好きだわここ。

「大将ー、次はー」

「次は木曽のお酒ね。限定の。はい、無濾過生原酒」

あーシアワセだ。もっと食べたい、もっと飲みたいけどお腹いっぱい。酔いも上々。
綺麗に平らげてお勘定。

「扉のそばで寒かったでしょう、すいませんね」と大将。
「いや全然。むしろ酔いが覚めてまた飲めましたわ」
ぐっはっはー!

良い店です。しめて5,000円台とお値段も良心的。

 

すっかり身体も温まって、夜の街をふらふらする。あそうだ、松本城見に行こう。

国宝!松本城

なんかやってる。

これか!

おおお〜。

城見なきゃ。

綺麗だはー。

去る。

 

ホテルまでの道をぷらぷら帰っていると

おいおい、ちょっとイキフン良くない?

大人のチーズバー・・・。

チーズバー・・・

オトナの・・・

突撃(笑)。

 

店内は撮影禁止だったので写真はないが、綺麗な一枚板のカウンターに通されて、赤ワインを飲みながら、マスター上條さんのオススメするチーズをつまみに懇々と話す。ブルーチーズやワインのこと、松本という街のこと、明日の大雪のこと、バイクのこと。

上條さんは松本のご出身で、名古屋や東京代官山で修行されてから戻り、7年前にこの店をオープンさせた。大寒波が来るというこの時期に、バイクで来たというのが妙に恥ずかしくて、「ビジネスですか?」と聞かれ思わず「はい」と答えてしまった。松本で唯一ついた嘘(笑)。

「スーパーあずさ、明日止まらなきゃ良いんですが・・・」
上條さんごめん、遊びだしスーパーあずさじゃなくてバイクで帰らないかんとです。

Cheese Bar La Maison de Jo

再訪を約束して差し出された手にがっちり握手。今度こそホテルに。おやすみなさい。

翌朝の街は雪化粧。でも大雪というほどではない。これならどうにかなるか。

すぐに高速に乗るか、しばらく下道で帰るか迷う。荷物をまとめて9時にチェックアウト。

チャリと一緒に放り込まれるセロー(笑)。でも屋根下だったから濡れない。
小さくて古いビジネスホテルだったけど、清潔だし親切だしなんの問題もなかった。何しろ4千円という破格値。お世話になりました。

しばらく国道19号を南下して、塩尻北ICで長野道に乗ってみる。
気温は低いけど日差しがあったので、道路の雪は溶けて凍結もほとんどない。一気に帰路へ。

と言いたいところだけど、八ヶ岳の寒さで離脱(笑)。温度計は氷点下1℃。

ここでももちろん一人。

タイヤ凍ってる?

アウターの胸元は白く凍っていた。こんなのはさすがに初めてかも。

蕎麦食ってないこと思い出して、「三分一そば」が食えるというので注文。寒いのにザルをかっこむ。ウマイ!

この後は東京に近づくにつれ気温上昇。雪景色もなくなってくる。「あ、2℃だ。あったか〜」というおかしな状態に。

いつもは賑わう談合坂PAでもおひとりさま。

無事に500km走って帰宅。セローも頑張った。ヘッドのオイル滲み直してやらなきゃな。もちろん死ぬほど寒かったんだけど、忘れられない走り初めになった。良い旅だった。

 

 

 

 

カテゴリー: 1KH

1件のコメント

  1. えらいっ!よく頑張った。無事帰宅でなにより。
    手の指は大丈夫でしょうか?私は、ホッカイロを手の甲に直貼り、はがれ防止にニットの手袋。そしてJRPのムートングローブで防寒です。
    それども帰宅後の指は、凍傷寸前。ケラチナミンクリームを塗って、いたわります。
    尿素は痛いけど、効き目抜群です。
    冬の冒険は、ほどほどに。

    • RYOさま

      コメントありがとうございます。
      「ほどほどに」おっしゃる通りです。ちっともえらくはありませんね(笑)。久しぶりに修行ツーリングしちゃいました。
      手はどうしようもないですね。電熱かな〜とも思うんですが、そこまで冬乗らないですし。基本冬眠なんです。でもちょっと、楽しかったな松本。また暖かくなったら行きます。

  2. この季節に、大寒波が来てるのにすごいですね!何もなくてよかったです。
    しかし、すごく楽しそうで羨ましいです(笑)。風林火山もいいですね!行ってみたい!

    • nmindさん

      どもです。
      ホント、何事もなく帰れて良かった。あんま褒められたもんじゃありません(笑)。
      でも過酷だった分、思い出には残りましたね。風林火山、特別何がってわけでもないんですが、大好きな居酒屋です。機会がありましたらぜひに^^

  3. さすがにオフ車でも凍った路面は怖いよねぇ~ww

    先日、三京をBAJAで走っただけでも寒かったのに、中央高速で長野!お疲れ様でした♪

    • okuちゃん

      どもです。
      下りの凍結はエンブレ効かせながらただただ落ちていくしかなく(笑)。トラタイヤだし全く食いません。うにょうにょの峠でトラックがぐあって上がってきた時は終わったかと思いました。うーんマンダム。お互い気をつけましょー♪

    • 上山さま

      コメントありがとうございます。
      えーと、まさかあの上山さまではありますまい。K&Hの?な訳ないかー。
      どちらの上山さまかわかりませんが、長文にお付き合い下さってありがとうございました。そう思っていただけたのも嬉しいです。楽しいですよね、バイクって。

  4. はじめまして
    松本良いですよね~
    自分もよくバイクで東京から走りに行きます
    真冬は経験ないですけど
    塩尻北インターの近くの信州健康ランドにいつも泊まってます
    松本の風林火山行ってみたいので、今度は市内に泊まってみようかな
    これからもお互い安全運転で行きましょう
    失礼しました

    • snさま

      初めまして。松本好きの同志がおられて嬉しく思います。なんかイイんですよねー松本。信州健康ランドは知りませんでした。こっちも今度泊まってみようかな。風林火山、お酒好きでしたら是非訪れてみてくださいね、オススメです。コメントありがとうございます!

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