自家製ベーコンを作る

これまでピッツァに使うベーコンは、近所のスーパーで普通のものを買っていた。

井草正著『自然流ハム・ソーセージ・燻製(農文協)』は30年も前の本だけど、これによれば「市販品は燻煙液に浸けただけのものや、それすらも略され、塩漬け肉をケーシングに詰めて水煮しただけのものが多く、本来の燻製品として販売されているものは少ない」とある。なぜなら、燻煙(食材に煙をかけて燻すこと)は手間と時間がかかるからである。さらにいえば、その代わりにいろいろな添加物が入っている、ともある。

師であり友人でもあるマンチズ先輩も、店主が店先で燻した自家製ベーコンをピッツァに使う。自分で作れば余計なものは入れないし、なにより市販品よりはるかに旨い。僕もいずれはやりたいと思っていた。

豚の三枚肉を買ってきて、いざ自家燻製のスタート。
ベーコンに限らず燻製というものは基本的に、塩漬けし→塩抜きして→乾燥させ→燻煙する。これといって難しい手順はないのだが、とにかく完成までには時間がかかる。初の自家製ベーコンは、奥様が率先して処理などをやってくれた。

まず塩漬け。
食塩や玉ねぎ、少量の砂糖や香辛料などを肉に擦りこむ。この工程は全部奥様がやってくれたので、なにを擦りこんだか僕は詳しく知らない。これをペーパーなどで巻いて水分を切りながら、袋に入れて冷蔵庫で漬けこむ。毎日ペーパーを変えて肉の状態を確認するなど、すべて奥様がやってくれた。僕は生地づくりに集中できる。

4日間ほど冷蔵庫で漬けこんだら塩抜きをする。
このままでは塩っ辛くて食べられないので、浸透した塩気を適度な濃度にするのである。これにも流水法と溜め水法とあるようだが、どうやら流水法がうまくいくようなので、ボウルに肉を入れチョロチョロと水を流し続ける。これも数時間という単位でやるので水道代が気になるところだが、手間暇かけて作ったベーコンが塩っぱくて食えないという由々しき事態を避けるためには、我慢のしどころである。

端を少し切ってフライパンで炒め味見をしながら、5〜6時間は塩抜きしただろうか。そろそろイイだろうという段になって、むしろ重要な工程である乾燥にうつる。水でびちょびちょにした後はしっかりと水分を抜かないといけないなんて、こう書いてても実に手間と時間がかかるな。

湿った状態で燻煙すると、煙と何らかの成分が水分と結びついて酸味になってしまうという。塩っぱいベーコンも勘弁だが、酸っぱいベーコンもこれまた泣きたくなる。燻製は一見すると、燻煙が重要な作業に思えるが、最も大事なのは塩抜きと乾燥らしい。

流水に浸し続けた肉に金串を刺して、ガレージに吊るして扇風機で風を当てる。一晩。
この間も、奥様は夜中に起きて肉の向きを変えたり、まんべんなく乾くように風の流れを変えたりしてくれた。コロナで惜しくも逝去された有名料理家の名言を借りれば、「料理は愛情!」である。

 

長かったこれまでの工程を終え、いよいよ燻煙!
燻煙箱は調べればいろいろなものがあって、キャンプでも使える安価な段ボールタイプのものもあるが、そんなものわざわざ買うまでもなくガレージに転がっているのでそれを使う。要するにスモークウッドが消えることなく燃え続け、煙を充満できればイイのである。むしろどこでやるかが問題。煙や匂いが広がってご近所さんに迷惑をかけたり、ましてボヤ騒ぎにでもなったら大変。考えた末、勝手口裏の狭い中庭で密かに燻すことにする。

段ボールを切った張ったして燻煙箱を作る。中に網を仕込んで肉が乗るように。下段には桜のスモークウッドをセットしてバーナーで着火する。

箱をかぶせてしばらくすると火が消えてしまう。
どうやら酸欠のようなので、下側の隙間を大きめに開けて空気の通り道を作ると、消えずに煙を出し続けてくれた。この状態で4〜5時間燻す。匂いや煙が気が気じゃなくて、ちょいちょい外に出ては「なんか作業してますよ〜火事じゃないですよ〜」アピールを誰ともなくする。箱周辺は結構匂いが上がるものの、少し離れるとほとんどわからないのだが。

4時間くらいスモークして一度出してみる。

おお!飴色でいい感じ。

もう1時間ほど追いスモークして完成!無事5時間を乗りきる。

いいじゃんか〜。

切ってみる。

炙って食ってみる。

うんまっ!

香りヤベー!

あー、今まで食ってたのはベーコンという名の偽物だったのね。これからピッツァには本物を使います!

奥様とは今後はスパイスを試してみたり、レシピを確立しようと話しています。時間かかるからもっと多めに作ろう。そもそも燻製は保存食であるわけだし。

フードシーラーで真空保存して出番を待つ。

 

 

 

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。